小川糸『食堂かたつむり』読了

 面白かった。突っ込みどころは山ほどあるけど、すっごい面白かった。

 私はどちらかというとハードな読み物が好きなので、読む前は、私好みではない予感がしていた。内向的女子が好きそうなタイトルからして、波長が合わなさそうだなぁ、と。

 SNSで、お薦めの本としてタイトルが挙がっていたので、読んでみることにした。人がわざわざ投稿までして薦める本は、きっと「何か」が内在すると信じるからだ。

 読んだ結果、非常に満足した。

 作者の料理好きぶりが、余すところなく表現されている。全体の描写はボヤっとしていても、料理のシーンだけは詳細。料理について書かれた箇所の熱量が凄い。好きなことを思いっきり盛り込んだ大胆さに好感を覚える。

 料理以外のシーンには、いろいろと問題がある。冒頭から難ありである。

 物語は、インド人の恋人に振られるところから始まる。インドに傾倒している私からしたら「おっ!」と心を掴まれた。期待が膨らむ。

 ところが、だ。

 物語を最後まで読んでも、恋人がインド人な必要性は、ほとんどない。インド人の細かい描写はないし、名前すら出てこない。珍しさで読者を惹き付けるためだけにインド人が採用されたとしか思えない。インド人に対する敬意を欠く。物語の構築の都合だけで、登場人物や環境的な設定が次々と利用されていく点において、この小説に共感できなかった。世界は自分のために都合よく回っている感じが、作者の思想として感じ取れる。

 私が買った文庫本の奥付を開くと、「第41版」と記されている。40回も再版されている大ベストセラーである。

 先日に観た映画『事故物件 怖い間取り』の中田秀夫監督が、高評価6割、低評価4割ぐらいなら及第点、という旨の発言をしていた。高評価と低評価の割合が逆だったら明らかに失敗だが、6割の人が楽しめたのなら、まずまず、といったところらしい。

 AMAZONのレビューを確認すると、『食堂かたつむり』の賛否も、だいたい6対4。レビュー数が300を超えている点にも注目したい。

 ベストセラーになるだけの魅力を、この小説は持っているのだ。読みやすい。泣けるシーンも用意されている。大変に楽しませてもらった。小川糸さんのエッセイや別の作品も面白いらしいから、読んでみたい。

 だが、私は他の人に『食堂かたつむり』をお薦めしないだろう。この世界観に心酔する読者がいるとしたら、日本の行く末が心配でもある。

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