柚木麻子『BUTTER』

※ちょっとだけネタバレがあります。ご注意ください。

 今年読んだ本の中で、暫定1位!

 めちゃめちゃ面白かった!

 週刊誌の女性記者が、取材のために連続殺人犯に面会に行く。殺人犯の言葉にコントロールされ、動かされていく人間ドラマ。

 アマゾンのレビューを見ていると、私のように感動している人と、批判的な人に分かれている様子。

 批判的な人は、「独白が多過ぎる」と。
 主人公の心の声を地の文で描いた部分がとても多い。
 これは好みの問題だろう。主人公の心模様が描けるところが小説の醍醐味の一つである。たしかに冗長過ぎる印象を受ける場面もあるが、私にはむしろ好印象だ。丁寧かつ細やかに、伝えにくいニュアンスを諦めずに描き切ろうとする気概を感じさせる。

 物語に登場する連続殺人犯は、木嶋香苗さんをモデルにしている。
 この前に読んだ折原一さんの『模倣犯』でも木嶋香苗さんをモデルにした主要登場人物がいる。なんか知らんけど、皆、木嶋香苗さんが好きなのねぇ。個性的だし、注目する心理はわかるけれども、まさか立て続けに木嶋香苗劇場を読む結果になるとは想像していなかった。

 余談だが、木嶋香苗さんのブログを読んだことある? めっちゃ文章が上手いよ! 人を惹きつける文章をお書きになる。

『BUTTER』の話に戻りたい。

 登場人物たちのキャラクターの書き分けが実に見事。
 私が一番気に入った人物は、主人公の恋人の誠さんである。
 ちょっとヘタレで人との関わり方が不器用なのだが、気持ちがわかる。世話を焼かれるのが苦手。恋人が手料理を作ろうものなら不機嫌になる。「(恋人に)そういうのは求めてないから」と、素直に喜ばない。深層心理には、仕事に忙しくて母親に構ってもらえなかった子供時代の心の傷が隠れている。他人には迷惑を掛けない代わりに、他人にも自立やストイックさを求める。私にもそういう心の傾向があるから、感情移入して読んだ。

 作品の中でちょっと気になったことが2点。

 1点目。40代以上の登場人物は皆、人生に疲れているような描写がされている。
 そんなに老いた感じに書かなくてもいいのにねえ。
 昔、漫画・アニメの『名探偵コナン』の毛利小五郎が38歳だと知って驚いた記憶がある。どう見ても40歳は越えている。作者が若いから、年長の登場人物は齢を取って見えるのだろう。きっと柚木麻子さんも若いから、40歳以上は年寄りに見えるんだろうなぁ、と。

 2点目。体重の問題。
 主人公は殺人犯の影響を受けて、どんどん脂肪分たっぷりの料理を食べるようになる。それでみるみる太って、周りに「太った」と揶揄われる。
 もともとが身長166センチで49キロ、54キロぐらいから周囲の目が厳しくなっていき、最終的には59キロまで育つのだが――
 166センチで59キロだったら、ぜんぜん太ってないよねえ?
 元エレベーター・ガールで美意識の高い知人が、「昔は50キロを越えたら死のうと思ってたのよね。今では余裕で越えちゃってるけど」と自虐的に笑った時を思い出した。太り過ぎの私に向かって、それを言いますかね? その理屈だと、私なんて生きている価値もないのだが。

 と、いろいろと突っ込みどころはあるが、本当に面白かった。登場人物一人一人のこの先の人生を知りたくなるような愛着が生まれた。最後に皆で集まって食事をするシーンに感動。この作品に出会えて幸せだ。

 最後に、作品の中に出てきた食品の中で、気になるもののリンクを張っておく。

■エシレバター

https://www.kataoka.com/echire/

 フランス産のフレッシュ・バター。
 軽い口溶けが特徴。エシレとバゲットさえあれば、私には大変なご馳走。
『BUTTER』の中では、エシレを使ったバターご飯が登場する。
 殺人犯が主人公に、エシレを炊き立てのご飯と醤油で食べるようにと勧める。
 私個人的には、バターご飯なら日本メーカーのバターのほうが合う気がするけれども。エシレでやってみたことがないから、不明確ではある。

■銀座ウエストのバタークリーム・ケーキ

https://sumally.com/p/1875017

 上品な飾りつけ! 私も食べてみたい! 店舗によっては喫茶室でカット・ケーキが戴けるらしい。今度、東京に行く時は、ぜひ足を運びたい。

 他にも、バターたっぷりの食べ物たちがどしどし登場するよ!

 人生初の39.1度の熱を出した次の日から、寝ながら読み始めた本。コテコテの食品が次々と紹介され、いささか胃もたれがした。読むだけで身体に変調をきたすほど、柚木麻子さんの描写の腕が卓越している証。

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